「フリムン徳さんのアメリカ便り」第70号
「フリムン野菜」
                                    

2011.11.9

裏庭の高台から見渡せば、目の前に迫る若草山、中草山、奥草山。奈良の若
草山にそっくりの丸い山が3つ並んでいる。フリムン徳さんが、目の前から順
番に若草山、中草山、奥草山と名づけたのであります。左を振り向けば、低い
はげ山の斜面にぽつんとこぢんまりした樫の木が寂しそうにたたずむ。まるで
置き忘れられた盆栽のようだ。
目を手前に移すと幹が直径5センチから10センチほどの樫が7、8本群れになっ
て生えている。幹の上にはこんもりと濃い緑の小島の形をした帽子をかぶって
いる。潅木の森を切り開いた際、群生していた同じような背格好の樫の頭を切
りそろえ、地面から1.5メートルほどの高さまで枝を切り落とし、盆栽のように
剪定したのであります。フリムン徳さんは、内心、実にうまくできたと満足し
ている。

 その裏庭の片隅に、ゴミ捨て場で拾い集めたようなみすぼらしい材木と錆び
てよれよれの金網で四方を囲った小屋が3棟ある。3棟とも見事にみすぼらし
い。左側の見事な樫の盆栽と実に対照的である。小屋と言っても、雨が降った
ら小屋の中も同じように雨が降る。屋根が日除けのビニールの網だからだ。そ
れぞれ8畳か9畳の広さである。40センチほどの高さの枠を造り、その中に
土を入れて、いろんな野菜を植えてある。おまけにおんぼろのドアまで付いて
いる。周囲とあまりにもつり合わない、あまりにもみすぼらしいと、見た人は
思うだろう。これが28年間も茶室や障子専門の「名大工」として鳴らしたフ
リムン徳さんが造った野菜畑であります。フリムン徳さんが「名大工」であっ
たことを知っている人は、このみすぼらしい小屋を見ても、「みすぼらしい」
とはあけすけには言うまい。

 去年、ロスアンジェルスの月刊誌(TVファン誌)、サンフランシスコの日米
タイムス、北米毎日、ラジオ毎日など、日本語新聞、日本語ラジオ局が続けて
廃刊%廃局になった。フリムン徳さんのエッセイの投稿先が一度になくなったし
まった。フリムン徳さんは67歳にして、再び失業したようなものであります。
時間をもてあまし、揚げ句、野菜作りに行き着いた。
野菜小屋を作ったのは、フリムン徳さんの庭に頻繁に遊びにくる野うさぎや
リス、鹿、うずら等がフリムン徳さんの野菜を"ご馳走さん”といって全部食べ
てしまうに違いないからである。小屋の四方を金網で囲んだ。土の下からはモ
グラという大敵が攻めてくるから地面にも金網を敷いて、土を入れてある。屋
根は灼熱の直射日光をさけるために70%光線遮断のビニールの網である。買
ったのはこのビニールの網だけである。四方に張った金網や骨の材木は、15
年ほど前に牧場の柵に使っていた廃材を利用。少ない年金生活のフリムン徳さ
んの収入に見合ったおんぼろの野菜小屋であります。

 ところが、♪ぼろは着てても心は錦♪と、水前寺清子の歌のように、おんぼ
ろの野菜小屋の野菜はどれも驚くばかりの錦で飾られた、目を見張るような大
きな野菜に育った。
 おんぼろの服を着た女子はんが服を脱いで裸になったら、はちきれんばかり
の大きなおっぱいが鈴なりになっている、そんな感じでっせー。
「また、スケベーのフリムン徳さんは野菜までも女子はんにたとえよる、難儀
な男はんやのう」
と言う声がどこからともなく聞こえよる。
 どれも普通の2倍近い大きな野菜である。色鮮やかな、個性豊かなそれぞれ
の緑色で飾られている。キャベツ、レタス、さやえんどう、青ネギ、トマトが
右往左往して場所の取り合いをしている。昔60数年前に、生まれ故郷喜界島
でよく聞いた言葉「品評会」に出したら、キャベツ以外は全部が1等賞を取る
に違いない。キャベツはダメだ。外回りの葉っぱは大きいが巻きが小さい。ど
うしてだろうか専門のお百姓さんに聞いてみたい。

 フリムン徳さんはこの野菜小屋の土作りには精を出し、汗を流した。斜面を
削り取った土を入れ、台所の生ごみ、落ち葉、枯れ草を混ぜて、朝晩、水をた
っぷりかけて腐らせた。この自家製の土に野菜の種をまいた。オナゴはんに種
をまいたんとチャイまっせー。野菜の種をまいてから、芽が出るまでの待ち遠
しいこと、それは恋人からの手紙を待っている毎日のようであった。
 この頃、NHKのテレビでは農家の様子がよく出てくる。NHKが日本の農業を元
気にさせようと頑張っているようだ。その番組で農家のおばあさんが言ってい
た言葉を思い出す。
「畑の野菜は私の子供と同じです」
スケベーのフリムン徳さんには、
「畑の野菜は私の恋人と同じです」
である。 

 そのおんぼろの野菜小屋に“故郷喜界島”が来た。いや、昔、喜界島にいた
蝶“オオゴマダラ”が来たのである。喜界島の高温多湿とブラッドレーの超高
温乾燥は全く違う環境だが、この野菜小屋だけは喜界島と似た気候なのか。昔、
この蝶を喜界島弁で“トゥンニュッス ファビラー”と呼んでいた。
 昔の喜界島の人達のものの名前のつけ方は面白い。ファヴィラーとは日本語
でゆうたら蝶のことである。そして、“トゥンニュッス”とは鶏の糞のこと。
鶏の糞の臭いがする花には“トゥンニュッス花”と名付け、その“トゥンニュ
ッス花”の蜜を吸う蝶だから、“トゥンニュッス・ファビラー”。おもろい名
付け方やおまへんか。
 アメリカで、67歳になって野菜作りを始め、野菜畑で故郷喜界島の昔を思い
出しながら野菜の手入れをしていると、喜界島にいた蝶が現れた。喜界島の焼
酎を飲んで酔っ払って飛んで来たに違いない。

 年を取ったら、子供は作れないが、野菜は作れる。暇が十分にある定年退職
の皆さん、鉢植えでもいいから野菜を作って、自分の作った子供を味見してみ
ませんか。それは老後の楽しみでもあります、自給自足の一部でもあります。
 喜界島の美代ねえに、
「肥えた土を作って野菜を作ったら、お化け野菜ができた」
と自慢の電話した。
「野菜作りは、水が第一、その次が肥えた土」と、言われた。その通りである。
フリムン徳さんは水の大事さを忘れていた。
フリムン徳さん

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