今里慕情

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今里慕情

          今里慕情

今里慕情(解釈)

(一)            
潮の匂いのする風が
今日も吹いてる 漁村(いそジマ)よ
沖にゃ綾船(あやぶね)通うのに
加那は帰って来なかった
立神洗う瀬音遠く鳴るばかり


(ニ)
寄り木(ゆりぎ)寄り寄る(ゆりゆる) 砂浜(すなはま)に 鳴いてさすらう鰹鳥(はぐれどり)
   
ウナリガミなら 加那尋(とぅむぃ)てぃ 
添えた情念(なさけ)と虞美人草(ひなげし)を
波面(なみ)に 浮かべりゃ 
せめて届けよ 沖の背に


 ー(間奏)ー
 ー(間奏)ー


(三)
珊瑚垣根(さんごかきね)も巫女袖衣(ふるそで)も
赤く 夕陽に染(そま)る頃
蛇皮線(じゃみ)に咽ぶ 島唄(ウタ)聞けば
茜(あかね)雲より まだ熱く 恋慕(おもい)は 燃えて
   
未練(みれん)影引(かげひ)く 今里よ

漁師を奄美の方言では「イシュシャ」と言う。 また、村つまり集落のことを、「シマ」と呼ぶ
ここでは、漁村を私流に「いそ・ジマ」として、詠った。

綾船 「あやぶね」とは、昔、奄美の沖を通って、琉球王朝が慶事のために薩摩の島津氏に送られた使節船のこと。 ここでは、沖を通る沖縄と鹿児島を繋ぐ定期船の意味。

加那   奄美では、愛しい者への尊称として「カナ」が用いられた。

寄り木 (よりぎ)・南島では海のかなたから集落の 浜に様々な幸をもたらす物として、ユリムンが 寄って来ると古くから考えられてきた。寄り木 も、その一つ。方言では(ゆりぎ)。

鰹鳥 (かつおどり)・奄美大島では戦前、鰹漁 が盛んで漁村の多くが鰹船で賑わい、えさ のきびなごを入れた、大きな竹篭生け簀がい くつも浮かび、集落の鰹の加工場でも、多くの女性が作業に従事していた。小さいながら 夜の集落には漁師相手の花町もあった。鰹鳥はその頃の漁村のシンボルとでも言うべき 鳥である。奄美大島の大和村の今里集落 もそのような鰹漁で賑わった漁村の一つであった。ここでは、かつての賑わっていた頃に飛んでいた鰹鳥が、時期違えのごとくに今でも集落の浜に来るのを「はぐれどり」として詠 んでいる。

ウナリガミ 「おなりがみ」、奄美・沖縄では、古くから
「兄弟」を守護するとされる「姉妹」の霊威 のことを意味する。兄弟の「エケリ」よりも霊的に優先するので、「オナリガミ信仰」と称されている。つまりエケリの旅立ちには、オナリガミの姉妹が海鳥に姿を変えて、船の周りを飛び回り航海の安全を見守ると考えられた。

尋(とぅむぃ)てぃ  尋(たずねる)。尋(たずね)て。 奄美の方言では、現在でも、人や物を探すことの「トゥムィリィ」が使用される。尋(とぅむぃ)てぃは、探しての意味。

虞美人草(ぐびじんそう)  虞美人は、項羽(こうう)の愛した虞妃(ぐき)のことである。古代中国の三国志の故事に見え、項羽と劉邦(りゅうほう)の 最期の戦いのとき、項羽は愛する虞妃とともに劉邦の大軍にまわりを包囲された。 項羽は別れの宴を開いてから最後の出撃をし、虞妃もこの時に自刃して項羽に殉じた。この故事にちなむ花が 「虞美人草」である。 北宋時代頃からは、一人の男性を思い通す、女性の「貞操」の象徴として、「虞美人草」を語ることがある。 ここでは、そのような女性の「一途な想い」を、「虞美人草」に託して詠んだ。 別名 「ひなげし」

虞美人草(ぐびじんそう)は 「ひなげし」(雛罌粟)だけではなくて、 世界中で、別名 「ポピー」(英米)「アマポーラ」(スペイン)「コクリコ」(フランス)などと呼ばれ親しまれている。罌粟(芥子:けし)科だが、「アヘン」は採取出来ない。 ここでは、闘病の「鎮痛薬」としての、モルヒネの薬効を、 「ひなげし」の語 に込めて、また、花言葉の「なぐさめ」を、「病気の癒し」つまり、「治癒」「完治」として、「恋の癒し」に詠み込んだ。

巫女袖衣   奄美には「ノロ」と呼ばれる、琉球王朝時代からの女性祭祀集団があった。 これは、琉球王の姉妹が就いた聞得大君、つまり(チフジンガナシ)をトップとするヒエラルキーの下部組織で、奄美にもその地域の「ノロ」がい
て、今里でもごく最近まで「ノロ」集団による 神の送迎祭「迎え(ウムケ)」「送り(オホリ)」で踊られる「ソデフリ」の儀礼が執行されていた。ここでは、その「ノロ」の祭の儀礼で着る白衣を「ふるそで」と詠んだ。

蛇皮線  奄美沖縄の三味線は、蛇の皮が張られている ので(じゃびせん)と書くが、実際には中国で、「三線」と書くように、「サンセン」「サンシン」さらに、「サムシン」などと呼んでいるのが普通 である。ここでは「ジャミ」と詠んだ。

(福島 義光)

 

                  作詞      福島 義光
                  作曲      小濱  薫  
                  唄       久永 美智子


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