「フリのムン徳さんのアメリカ便り」(第14号) 「土建屋兼電気屋の徳さん」
                                    

2005.6.16

  家造りも最後の段階にきました。電気を引かなければなりません。新しい家の
ヒューズボックスと45メートル離れた電力会社のメーターボックスとの間を繋ぐので
す。電柱を立てて空中に電線を張るのは景観がよくないから、電線は地中を通しま
す。幅25センチ深さ60センチの溝を掘らなければなりません。これが規格なので
す。何しろこの乾季です。車も通る庭の土はコンクリートみたいに固くてツルハシも
打ち込めまへん。少し水を撒いて柔らかくしながら、ツルハシとスコップで、えんや
こら、さっさ、えんやこら、さっさと言いながら掘り始めました。汗がだらだら流れ
る。30分掘って、30分休む。亀の歩みのようにノロリノロリです。コンクリートを割
る電気のジャックハンマーもあるが、今の私の力では重たくて使えません。ツルハシ
を使うのが精一杯です。
 なかなかはかどりません。この仕事はフリムン徳さんの体力の限界を越えてい
る。楽に掘る方法を、休むたんびに汗をふきながら、考え続けました。もっと土を柔
らかくせんとアカンな。そうだ、さらに柔らかくしてどろどろにしてたろ。そして、
ホースから出る水の水圧で土を押しのけられないか。水は自分の井戸の水だから、い
くら使ってもただだ。
 早速、やってみた。溝を掘る位置に水で直線を描いて、その線の上に椅子を置
く。それに腰掛けてホースの先端を持ち、吹き出す水流を溝の位置に当てる。土が洗
い流されて小さい溝になっていく。うまくいきそうだ。嫁はんがニヤニや笑ってい
る。ワイがオシッコで溝掘りをやっているように見えるのや。体力のない徳さんは、
椅子に座りながら炎天下で溝掘りをする方法を見つけた。
 家のヒューズボックスから15メートルは平坦で、屋敷の整地をしたときに削られ
た古い固い地盤。電力会社のメーターボックスの側の30メートルは、下りの傾斜地に
なっており、整地で削り取った土を盛ってある。だから、そこの表土は軟らかく水で
すぐ流れるので、「水流式溝掘り工法」にとっては理想的な地形なのだ。
 川の流れが山を削り深い谷ができていくのと同じです。少しづつ、少しづつでは
あるが、根気強く続けているといつのまにか大きくなります。体力のない徳さんにで
きることはこれしかありません。2週間、これを丹念に続けて、45メートルの溝を
水とスコップで掘りました。すぐに機械に頼る隣のアメリカ人達は、「水で掘った」
というとあきれ顔です。フリムン徳さんは達成感で一杯です。こんな時は冷たい生
ビールでカンパイやなあ!!
 この溝に電線を埋めるときには、直径5センチのプラスチックのパイプの中に親
指ほどの200アンペアの真鍮(しんちゅう)電線3本とグランド(アース)線と4本入
れる。困ったことに、この線が重たいのや。パイプの中に通すのは1人ではできな
い。2人の力がいる。通すときは隣のニックや、ケンが手伝いに来るという。ヒュー
ズボックスへの接続を終えると、フリムン徳さんがした屋内配線に電気がはじめて通
る。  
 黒いビニールで巻かれている200アンペアの真鍮線とパイプの材料代は$700ド
ルだが、この電線埋設工事を業者に頼んだら$3000ドルは取られるのや。自分でした
ら、材料代だけで済む。財政上の圧力は、フリムン徳さんを「土建屋兼電気屋の徳さ
ん」に変えてしもうた。
 電線を埋める前にインスペクターが来て、水で掘った溝の検査をすることになって
いる。

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徳さん」の出身地の鹿児島県大島郡喜界島の「小野津集落」は昔からの港でした。集落民の性格は豪放で発展性があり常に島外に目が向いていたようです。島外においては郷友会(郷土出身者の集い)の活動も盛んだということです。私も何故か縁あって知り合いが多いです。結婚式などにもお呼ばれしました。

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