声に強弱をつける、メリハリをつける、棒読みはあかん、あまり早くしゃべっても遅くしゃべってもあかん。スピーチの初めに笑わしたらしめたもん。なるべく、笑いを入れること。一方だけ見てしゃべってはあかん、回り全体を見ながらしゃべること。成功談はあかん、失敗談がええ。紙を見てしゃべったら、スピーチの値打ちが半減する。
これが私のスピーチに対する私の応援団のアドバイスです。ありがたいことです。電話やメールで懇切丁寧に教えていただいております。11月に23年ぶりに日本へ帰国します。日本の「フリムン徳さん応援団」から、「ぜひ皆の前でスピーチをして欲しい」と言って来た。「私はそんな値打ちのある人間じゃない、ただの大工だ」と言っても聞き入れてくれない。
いま、私の他にもう一人の徳さんがいるみたいだ。実際のただのオジサンの徳さんと、「フリムン徳さんの波瀾万丈記」の著者の徳さんだ。著者の徳さんは、東京、喜界島、アメリカを一人歩きしている。まだ会ったこともない方々が、フリムン徳さんの帰国に合わせていろいろと親身になって準備をしていただいているようです。ありがたいことです。「フリムン徳さんの波瀾万丈記」のお陰で予期しない嬉しいことがいっぱい起きています。本を読んで私に惚れてくれる人もいます。私の今までの経験では、その人に会って、その人と話をして、その人をよく知って、その人に惚れるというのが普通だと思っていました。商売人時代や、大工時代には経験しなかった経験に私は今おろおろしています。
「スピーチなんかやったことがないから、質疑応答でやったらどうやろうか」とTVファンの社長に言ったら、「徳さん、それはずるい」と言われた。なるほどずるいような気がした。そこで決心して、スピーチの原稿を「私のフリムン人生」というタイトルでエッセイ風に書いた。スピーチ風にしゃべると、1分間で、およそ240文字である。おおよその制限時間35分に合わせて調整を行い、スピーチ原稿がようやくできた。商売人や、大工の時は考えたこともなかったことだが、このフリムン徳さんがスピーチをする世の中になった。これも地球温暖化のせいでしょうか。
7月の末頃から、スピーチの稽古を始めた。さらに、テープレコーダーに吹き込んで、それを聞いて覚えたらええやろうと、テープレコーダーを求めて、2、3軒の店を回ってみた。でも、テープをイヤホンで聞く再生機能だけのウォークマンみたいのはあるけど、録音する機能がない。今はもう全部CDプレーヤになっている。あんなのややこしいてよう使わん。テープレコーダーが欲しいなー、欲しいなーと思っていたら、奇跡が起きた。ホンマに不思議だった。コンピューターの横の一番上の引き出しに、携帯用のまっさらのテープレコーダーが入っているではないか。私は、買った覚えもない、見た記憶もないテープレコーダーや。これはきっとウヤフジからのプレゼントやと確信した。ウヤフジ、アイガトウサマ。
イヤホンで自分の声を聞きながら自分の声を録音する、これも初めての経験
や。俺の声はもっとどすの効いた、渋い声と思っていたが、レコーダーから流
れてくる声は、なんや重みのない、軽い声や。がっかりや。ウイスキーをいっぱ
い飲んでのどを潰したらええ声にならんやろうか。ところが何十回と聞いてい
るうちに自分の声もええなあと思うようになってくる。自分の声に情が移るの
だ。おもろい。机の前に鏡を置いて、マイクの代わりにスリコギを持ち、頭を撫
でながら、イヤフォンを耳に、1日約3時間、フリムンみたいにスピーチの稽古を
している。車を運転する時も、ベッドの上でも、飯を食う時でも、やっている。
鹿児島出身の三遊亭竜之介、いなかっぺい、綾小路きみまろのテープを聞いて真似ている。どうも私のしゃべり方はきみまろと竜之介の中間みたいな気がする。毎日、机に向かって、大声を出して稽古をしている。恥ずかしいから嫁はんには聞かせたくない。嫁はんが仕事に行っておらん時や、夜中に起きてやっている。それでは聴衆は一人もいないかというとそうでもない。私が大声を出して、稽古を始めると、飼い猫の「フリムン太郎」が机の前の鏡の横に座り、真剣なまなざしで私を見ながら、スピーチをご静聴してくれる。ただ、私のスピーチの良し悪しについては、「フリムン太郎」はニャンとも言ってくれませんが、好評だからこそいつも聴きに来てくれるのだと考えております。良き聴衆を得て満足しております。
まだ11月帰国まで2ヶ月以上あります。こらからも稽古を重ねます。稽古の結果を、3,4人の人に電話などで、聞いてもらって講評してもらっております。猫にも好評のフリムン徳さんの「めいスピーチ」にご期待ください。
フリムン徳さん