待ち遠しい、 待ち遠しい、ホンマニ待ち遠しい。63年の私の人生でこんなに待ち遠しい経験をしているのは始めてや。指折り数えて待っているのではない、指折りしてから、またその指を開いて待っている。それでも時間の経つのが遅い、日にちの経つのが遅い。こんなに待ったら、「待ちくたびれ病」という病気になりそうや。
23年振りにこのフリムン徳さんはアメリカから日本へ帰る。私が病で倒れて、落ち込んでいた時にベッドの上で書いたエッセーを出版費用をカンパして、本にして出版してくれ、そして文章の書き方も教えてくれた、日本の喜界島同級生の好意で11月11日に日本へ帰ることになった。殆どが、中学校を卒業して48年も会ってない日本の同級生だ。東京と喜界島でそれぞれ100人以上も集まって、私の歓迎会と講演会をやってくれるという。このノンベーの、そしてフリムンの大工の私には似合わない人生最大の出来事だ。
だから今度の帰国は親、兄弟、親戚よりも同級生が第一だ。私はこの計画を1年少し前から立てた。「こんなに早くからと」嫁はんは笑いよった。初めに、切符代を貯めることからした。少ない身体障害者の年金生活ではなかなか貯まらなかった。時間がかかった。その次にしたのは6ヶ月前の飛行機の予約だった。この予約をした時から、日本へ帰れるという感じがしだしてきた。
その次は5ヶ月前に皮靴を買った。何でそんなに早く靴を買うかというと、靴を履き慣らすためだ。私はここ4年ほど、靴を履くのは教会へ行く日曜日と2週間に1回近くの町へ買物にいく日だけだ。それ以外は家の中でもの書きをしているから、殆ど靴は履かない。皮靴を買った。100人以上の前で、運動靴でのスピーチは似合わんと思ったからだ。この靴の色もいろいろ考えた。どの服の色にも合うのはやはり黒だと思って黒を買った。うつむいて靴紐をくくったり、解いたりすると両膝が痛むから、靴紐のない一枚皮のを探した。殆どが100ドル以上だ。靴7足分で日本往復の切符が買える。おお, 高!!。こんなん買えるわけがない。とうとう黒いレザーの紐無しのを29ドル99セントで買った。でも、やはり、本皮とは光が違う。でもこれぐらいのがこのフリムンにはおおている。
2ヶ月前には、旅行鞄と下着類、シャツ、ズボン、ジャケットを買った。3週間の旅行やから、6枚ずつ下着を買った。この下着が1枚5ドル以上もする。下着に5ドルも払うのは損してるみたいや。ハンバーガーを食べる5ドルはなんとも思わんが、下着に使う5ドルは惜しい。これはどういうことや。俺は食いしん坊なのか。でも、私が一番金を惜しまないのはビール代やねん。
それから、まだ困った買い物がある。香水だ。日本は男も香水をして化粧をしていると言う。このフリムン大工は香水なんか買ったことも使ったこともない。男がつけるのも香水と思っていたら、ロスのフリムン応援団長の金子さんに、男がつけるのは香水ではなくオーデコロンというのだと言われた。このフリムンは63歳になるまで香水とオーデコロンの違いも知らなかった。難儀な男です。男の汗臭さが一番のおなごはんを引きつける香水と思っていたぐらいだ。香水売り場なんか行くのは恥ずかしさを通り越して、怖いぐらいや。でも、今度は48年ぶりに会う同級生の別嬪さんと「本を書いたフリムン」として抱き合って挨拶するつもりだから、汗臭い臭いではあかん。やはり、ほんのりと、微かな甘酸っぱい匂いのするのを付けて行きたい。なんぎやのう。
教会へ行く日曜日だけに付けている髭剃り後のクリームにするか、 思い切り度胸を振り絞って、化粧品売り場で生まれて始めてオーデコロンというものを買うか迷うています。48年ぶりに会う私の喜界島の同級生の別嬪さん、このフリムンの匂いを嗅ぎ当ててください。