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許状
貴殿は周りの者からのさまざまな批判やら冷やかし等の雑言にもめげず、
よくそれを我慢し、文句を一言も言わず、ひたすら、手打ち蕎麦打ち込みに修業
を重ねました。よって、その我慢と修業に対し、ここに許状を授けるものとする。
2007年7月1日
手打ち蕎麦加州独断流家元 雍久
フリムン徳雍 殿
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あまり見かけない許状だと思います。
この許状は、手打ち蕎麦加州独断流家元 雍久(ようきゅう)から私フリムン徳さんに授与されたものです。家元雍久がアメリカで初めて出した蕎麦打ちの許状です。この私への許状授与の直前に、手打ち蕎麦加州独断流の家元もベーカーズフィールドに発足いたしました。
去年、ベーカーズフィールドのYさんの家を訪ねる機会がありました。話が趣味でやっている手打ち蕎麦の話になり、とうとう、「手打ち蕎麦を習ったらどうか」と誘われてしまいました。私は飲む方と、おなごはんには興味がありますが、食べることには興味がありません。二つ返事で「よろしゅう頼んます」というわけにはいきません。
まだ正式な家元ではないYさんはピカピカの蕎麦切り包丁を取り出してきてテーブルに置きました。初めて見る蕎麦切り包丁や。光り輝いています。大きな包丁です。よく切れそうです。中華の包丁ぐらいの大きさです。見とれました。手にとって見ました。柄も手のひらにしっくりとなじみます。そんなに重くはありません。手が勝手に動き出しそうや。昔、漫画でブームになった“味平”を自分にダブらせて、ちょっと楽しい気分になる。3,4人の別嬪のおなごはんを目の前にして蕎麦を打っている自分を思い浮かべる。会話もはずみよる。ええ気分や。「この包丁、上げるよ」家元の声。これで決まりでした。私は弟子入りすることになりました。
「やればできる、あきらめたらアカンネン」です。もう後には引けません。頑張るのみです。7対3か、8対2に蕎麦粉と小麦粉を混ぜます。その割合は打つ人の好みによります。水を加えて、丁寧にくまなくこねる。それから、伸ばし棒で均等に伸ばしていく。縦に横に何回も方向を変えて、蕎麦粉を振りかけながら徐々に1ミリほどの厚さに伸ばしていく。そう難しくない。ただ、その後工程の、細く、均等に、すっきり切るのが難しいのです。
切るのには経験と熟練がいります。両足を少し開いて、腰に力を入れて、包丁を垂直に入れていくのだがうまくいかない。その「切る」技術の向上のために、家に嫁はんがいない時を選んで、小麦粉を練って、何回も切るけいこをしました。それでもうまくなりませんでした。
そうこうしているうちに、家元の家に泊まり込みで行って、「免許試験」をかねて蕎麦打ちの模範演技を見せてくれることになった。私はその切る動作を、一部始終、隅から隅まで、注意深く観察しました。そして、とうとう、わかりました。私は腕だけを動かして、腕の力だけで切ろうとしていました。家元は身体全体を使って、腕に体重をかけるようなしぐさで切っているのです。大発見でした。私も身体全体を使って切るようにあらためました。案の定、楽にうまく切れるのです。これで合格や。
家元夫人のK子さんと私の嫁はんは、受験中の私の苦闘振りを横で見ながら、何やかんや言うのです。
「何や、うどんみたいに、太いがな」。
「アカン、端っこが、切れてないや」。
「これでは、今日は、許状はもらえんなあ」。
二人は好き勝手なことを言っている。
「自分がやってみたら、わかるんや」とどなりたいけど、家元とそのご夫人の前では、そうどなるわけにもいきません。難儀やのう。
やっと、思ったとおりに切り終わりました。これで許状がもらえるはずです。私は自信があります。
「家元さん、気が変わらんうちに、早く、許状をお願いします」と頼みました。しかし、だめでした。「今日は、上げられない」と言う。あんな優しそうな顔して、よう、そんな冷たいこと言えるなあと、がっかりしました。できあがった蕎麦を食べてみると実にうまかった。皆うまいと言った。でも許状の方は仕方ありません。どこがまずかったんやろか。その晩はゆっくり、休んで、翌日挑戦することにしました。翌日、再試験に挑戦し、午前10時半頃、ようやく、許状を授かりました。一晩寝たからうまくなったというわけでもないのに。昨夜、いい焼酎を飲ませてもらったのが効いたのだろうか。フリムン徳さんは「フリムン徳雍」と名乗ることになりました。
それから、K子家元夫人から、蕎麦のゆがき方をわかりやすく指導してもらいました。「蕎麦は新しさが命です。なるべく、大きな鍋に2リットルから3リットルの水を入れ、沸騰した時点で蕎麦を入れる。蕎麦が浮き上がってきたら、ざるなどに取り出し、冷水で荒熱をとり、最後に蕎麦を締めるために氷水でゆすぐように洗います。」 加州独断流手打ち蕎麦は長生き蕎麦です。打つ前に、必ず手の爪を切ります。きれいに手を洗います。
腕時計もはずし、清潔をモットーに「細く長く」切ります。今年からは、「うどん」を食べるのも、おいしいうどんの話をするのも減らします。「手打ち蕎麦の許状をもらった『フリムン徳雍』が、うどんを食べて、おいしいうどんの話をする」これは駐車違反のように思います。
フリムン徳さん