「フリムン徳さんのアメリカ便り」第40号
エッセイ 『竹内社長様、有り難う。』
                                    

2008.2. 24

□□ エッセイ 『竹内社長様、有り難う。』  □□  
                         フリムン徳さん
「古い人間とお思いでしょうが、古い人間ほど味があるのでございます。」
 昔、義理と人情のヤクザ映画によく出てきた鶴田浩二の口から出そうな言葉である。もうこんな言葉に似合うような人間は少ないと思いますが、こんな人間様がまだアメリカにいてはりまんのです。

 怖い顔のお方を想像しそうですが、ちゃいまんね。まったく逆の、優しい、まじめそうな顔にメガネをかけた紳士ですねん。
 白い長袖のシャツにネクタイ、紺の長ズボン、ベルトの右腰に小さな携帯をつけて、まっすぐに背筋を伸ばして歩く姿、見たことがあるような気がします。これに帽子があれば空を飛べるのです。そうです、彼は飛行機のライセンスも持っているのです。パイロットは車のドライバーみたいに10メートル先を見て運転するのではありません。スピードが速いから何百メートルの先を見て操縦しないと飛行機が墜落するのです。それには背筋をまっすぐに伸ばさないと先が見えないのです。彼の真直ぐ伸ばした背筋にパイロットと書いてあるような気がします。でも本職はTCI(トランスサークル)という運送会社の社長さんです。

 忙しい社長さんです。たまに電話しても「ただいま電話中でございますが」か、「今出かけておりますが」が多くてなかなかお話しすることが出来ません。はじめに電話に出てくる女性の「いつもお世話になっています。“真心で運ぶトランスサークル”でございます。」このごく普通の挨拶の言葉のしゃべり方に味があるのです。これは「古い人間とお思いでしょうが、古い人間ほど味があるのでございます。」の彼が、非常に気をつけて教え込んだしゃべり方のように思えてなりません。この電話に出てくる女性の初めの挨拶の言葉の調子だけで、TCIという会社が一味も二味も違う会社に思えるのです。「この会社となら取引してもいいなあ」とムズムズさせるのであります。

 商売、取引は初めの第一印象が一番大事かと思います。
「顔やおまへん、心です」。私は先日、6年か7年ぶりにこの社長さんに会いました。ガーデナにある掃除の行き届いた大きな敷地の会社へ連れて行ってもらいました。「顔やおまへん、心です」では足りませんでした。「顔です、心です」。別嬪な顔、優しそうな顔、まじめそうな顔、賢そうな顔の3人の女事務員さんに私を紹介してくれました。助べーの私はほろ酔い気分になりました。「月給もいりまへん、飯代もいりまへん、私をこの会社の雑用に使ってください。もうこの際、歳は関係なしということにして下さい」。こんな気持ちになりました。3人じゃなくてもう一人別嬪さんがいるというのです。ほんまやろうか。この一人が気にかかりましたなあ。気持ちのいい事務員さんたちでした。

 私が造った日本間に一晩泊めてもらいました。茶室や日本間や床の間が完成した時はおなごはんが子供を産んだ瞬間に似ているかも知れまへん。丹念に材料を選んで、精魂を込めて造り上げ、出来上がった時のうれしさ。床の間に向かって正座して眺めるときは自分の産んだ子供を眺めるみたいな気持ちです。そして、皆さんに「よう出来た、きれい」と言われると目の前に「幸福」と言う字があるように思います。
 また、何年かして自分の作った日本間を見るのも気持ちのいいものです。床柱、欄間、違い棚、天井、障子が「親父、元気か」と話しかけてくるような懐かしい気持ちに浸れます。もう自分の手を離れて、育てる義務のない、開放された少し無責任な、気持ちにもなります。孫と会った気持ちと似ているでしょうか。
 何年かして自分が造った日本間で寝られる私はなんと幸運な人間かと思います。そんな幸運な私に社長さんがじきじきにもてなしをしてくれました。社長さんのもてなしは超一流です。帝国ホテルが何じゃらほいです。眼の覚めるような、天国に持って行けるようなもてなしをしてくれるのです。

 今は物書きの端くれですけど、元大工の私に、いや大工のワイに、社長さん自ら、日本間に、押し入れから布団を出してひいてくれるのです。「社長さんが大工さんに寝床の布団を引いてくれる」これを絵にしたら、ピカソの絵よりも高値で売れそうやおまへんか。

 親切な人です。古い人です。私が日本間を作っていた頃は嫁さんのお母さんも一緒に住んでおられ面倒をみていました。“自分の親と一緒に住む、親の面倒をみる”人を探すのは今の世の中、大変なことだと思います。それが、アメリカでです。その時私は社長さんに心を打たれました。いつもレストランへ行く時は家族一緒です。レストランでも、ホステスさん以上に家族や私に気を遣ってくれます。こんな人が日本の大企業を相手に商売をしている人かと疑います。でもこんなに人に気を遣う人が偉いさんだとも思います。私にはこんなことは出来まへん。社長さんは気を遣いすぎるほど気を遣ってくれて、私との再会をもてなしてくれました。

 でも社長さんよりももっと賢いのは白人の奥さんのようです。私は社長さんの嫁はんにほれました。別嬪の白人です。なんと彼女も飛行機のパイロットのライセンスを持ってはるのです。旦那も嫁はんも飛行機のライセンスを持っている二人が運送屋さんをしている。これほど安心して任せられる運送屋さんがあるでしょうか。会社の広告写真には手のひらに卵を乗せて運ぶ写真です。憎らしいです。以上は、宣伝です。別嬪の奥さんが別れの時に言った言葉が忘れられまへん。「徳さんに、日本茶を買って持たしてください」でした。私が社長さんがいれてくれた久々の日本茶がおいしいと言っていたのをお覚えていてくれたのです。これで引っ越しの運送はTCIに決まりです。

 これだけ、人に気を遣う社長さん、奥さんですから、ストレスも溜まると思います。どうぞ好きなカラオケをはしごして、ストレスを解消してください。

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■■ フリムンはん。 ■■
                     竹内誠二
流石文筆家の徳はんでんなあ。
いやいや、何度読ませてもろうても素晴らしい出来でっせ。
ワイの事をあそこまで持ち上げられて、なんか,こそばい思いでんなあ。

もう大工はんではおまへん。 立派な作家でっせ。川端康成か芥川
龍之介の域を超えてまっせ。

ワイの事務所の別嬪さんて、誰の事やろ?
徳さんのエッセイをオフイス内で回覧したら、別嬪さんも、そうでない
別嬪さんも、「別嬪さんて誰の事?」。「あれは私の事や」。「いや違う。
あれは私の事や」と仕事も手に付かず、大騒ぎでっせ。

フリムンはんも罪作りな事を書かれまんなあ。
別嬪さんと書かれる時には、ちゃんと名前を書いておくれやす。
そうでないと、別嬪さんではない社員に、社長はんが苛められ、
可哀想でっせ。
でも、毎日々々、別嬪さんに苛められ、TCIの社長はんは快感を
感じるようになって来ましたで。

今度、フリムンはんが次に事務所に来られた折には、フリムンはんが
気になった、もう一人の飛び切りの別嬪さんに会わせましょう。
でも、4−5年後になったら、この別嬪さんも、そうでは無くなって
しまいまんがな。早よう、来なはれや!!

フリムンはんが作った日本間に、色ボケしたTCIの社長さんが敷いた
布団に寝た感想は? 
次回はワイが隣に寝てやりまんがな。

一流の執筆家の徳さんに、TCIの会社のみならず、拙宅での出来事等を
エッセイにして頂き有り難う御座いました。御書き頂きましたエッセイを
今夜持ち帰り、愛する嫁さんに詠み聞かせますが、次回書かれます折
には英語版も一緒に送付下さい。何しろ徳さんの関西弁の文章を英語に
訳すには、小生の脳みその容量では足りません。

これに懲りずに、ロスに来られます際には、遠慮無く拙宅に御泊り下さい。
" 友遠方より来る。又、楽しからざるや"の心境で御座いました。

第2弾、第3弾のエッセイを送って下さい。楽しみにして居ります。
時間を見付け家族共々、徳さんの住んで居られるブラッドレーに御邪魔を
致したく夢見て居ります。
先ずは、エッセイの御礼方一筆申し上げます。
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